ディス・イズ・マイ・トゥルース

「ディス・イズ・マイ・トゥルース　わたしの真実」ヤスミン・ラーマン 著 ／ 代田　亜香子 訳（静山社）

さて、１冊目はヤスミン・ラーマンの「ディス・イズ・マイ・トゥルース」です。

ヤスミン・ラーマンは、前作の「ラスト・フレンズ」がとても面白い作品でした。

罪の意識に苛まれながらの車椅子生活、性的虐待、パニック障害などの誰にも言えない深刻な悩みを抱える３人の少女が自殺マッチングサイトで知り合います。

”決行日”までサイトから順番に課される課題に３人で協力して取り組むうちに、３人は次第に心を開いて打ち解けていきます。

それぞれの視点が入れ変わりながら描かれる心理描写に引き込まれつつも、仲良くなってきたこの子達は結局死を選ぶ道を進むのか、どきどきしながら読み進めました。

実は、私の勤務している図書館から市内の中学校に配るプリントにこの本の紹介を載せたかったのですが、「全校生徒が見るプリントに自殺を促す内容の紹介文を掲載するのはいかがなものか」と上司からストップが掛かってしまったことがありました。。

３人の出会いのきっかけこそ「自殺マッチングサイト」ですが、決して自殺を促すようなものではなく、むしろ綺麗事ばかりではない世の中で、生きることを諦めない少女達の姿に胸を打たれる内容で、本当に多くの中高生に読んでほしいと感じた作品でした。

と、前置きが長くなりましたが、素晴らしい前作を書かれたヤスミン・ラーマンの次の作品、大変期待して読んでみると、、、面白かった！

主人公のアマニとその親友フーダは高校生。

人気テレビ番組でも活躍する獣医師の父親と、優しく物静かな母親、年の離れた可愛い弟のいるアマニの家族は一見「完璧な家族」そのものですが、実は父親から母親への日常的な家庭内暴力をひた隠しにしています。

一方、親友のフーダは、養子として育ててくれている両親からこれ以上ないほどの愛を受けて育っていますが、母親のお腹には新しい命が宿っており、そのことへの強烈な焦りと劣等感を抱いています。

どちらもお互いを「完璧な家族」と羨んでいますが、心の中では人には言えない悩みを抱えながら学校生活を送っています。

そんななか、学校内で突如暴露系ブログが誕生し、クラスメイトの秘密が暴露されていきます。初めのターゲットは、アマニをいじめていたクラスメイトの女子。次々とクラスメイトが標的にされるなか、いつか自分の家庭の秘密がばらされるのではとアマニは心穏やかではありません。

この作品、前作と同じく深刻な悩みを抱える少女がSNSに翻弄されるのがとてもよく似た設定ですが、テーマは深刻でありながらもするすると読み進めてしまうのは、この「デスゲーム」的な要素がミステリーとしての面白さを引き立てているからだと思います。

それから代田亜香子さんの訳がとても読みやすいです。代田亜香子さん、「若草物語」の訳で一時ネットで炎上していましたが、今の子が使うライトな言葉で現代的な訳をされる印象があります。古典や名作と言われるものには抵抗感があるという大人もいるかもしれませんが、現代の深刻なテーマを扱った作品を、現代の子に読んでもらうにはまさに持ってこいの訳者さんだと思います。

このみは、代田亜香子さんの訳、好きです。

さて、本編に戻りますが、DVを受けている家庭で育った子の心理描写が秀逸で大変リアルです。母親が暴力を受けているのを静観している時の言葉にできない恐ろしい感情と、今回こそ本当に父親が改心するかもしれないと期待する気持ち。現状を打破するためには誰かに助けを求めなければいけないけれども、一方で誰にも知られたくないという気持ち。

誰しも多少、家庭の悩みは抱えているもので、ここまでヘビーではなくとも、多いに共感できる心理描写です。第三者だと理性的に物事を見れるものですが、家族・自分の親となると強く信頼し、そして酷く傷つくものです。

簡単に言えることではないですが、「家庭が全て」の価値観である少年・少女達には、今の世界が全てではないことをこういった作品を通して知ってほしいものです。

さて、アマニの心配はむなしく、ついにアマニの家庭の秘密が暴露されてしまいます。しかし、それは意外にも悪意によるものではありませんでした。

アマニとフーダはそれぞれの悩みとどのように向き合っていくのでしょうか。

ぜひ、前作「ラスト・フレンズ」もあわせてお楽しみください。

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